朝から判断を求められる。部下の相談に答え、上司の無理を引き受け、会議では最後に結論を出す。
彼女がハードな環境でがんばるビジネスパーソンであることを僕は知っている。
SMの関係を持つ前の彼女は、自分のような女性が調教される漫画を読むことで、満たされない身体を慰めていた。読み終えるとSafariの履歴を消す。翌朝はまた、ちゃんとした顔で出社する。
しっかりしていると言われ、頼られ、任され、弱音を吐かない人ほど、それとは正反対の調教や服従という言葉に引かれる。
Xにも同じような声がある。彼女たちが求めているのは暴力による支配ではない。自分の意思ですすんで受け入れていくことだ。秘密の関係、屈辱、破滅。そんな言葉を並べて相手を探す声もある。
そこにあるのは、降りたいという願いだ。
彼女たちは1日中、正しい側に立っている。間違えない。言い負けない。だから負け方を知らないし、負けていい場所も持っていない。「壊されたい」という強い言葉を使うのは、そこまで言わないと自分に降りる許可を出せないからだ。
弱さではない。昼のあいだ立ち続けた人だけが持てる欲だと、僕は思っている。
だから、昼の顔には手を付けない。仕事、名前、人間関係。そこには一切触れないし、職場に何かを持ち込ませることもしない。ちゃんとした社会人としての尊厳は、ちゃんと返して日常に戻る。