ペットになることを選んだ女性

金曜の夜、仕事帰りの彼女は整った姿のまま会いに来た。 ジャケットにパンプス。職場では部下に指示を出す側の人だ。 飼われたいと書いて送ってきたのは、彼女のほうだった。

玄関で靴を脱がせ、部屋の真ん中に立たせる。

「服を全部脱ぎなさい。脱いだものは畳んで、足元に置きましょう」

洋服を脱ぎ終わった彼女は下着を脱ぐ際に、1度だけ僕を見た。僕は頷くだけにする。 裸になった彼女は下着まで畳み終えたとき、肩が少し内側に丸まっていた。隠したいのに、隠していいとは言われていない。その迷いが立ち姿に出ている。

「ひざまずいて。髪は自分で上げなさい。首をこちらへ差し出すように」

うなじがあらわになった首に黒い革の首輪を当てる。 革が肌に触れたところで、まだ取り付けていないにも関わらず彼女の息が詰まった。指が1本入る余裕を残して金具を留める。小さな音がした。喉が動き、首輪もそれに合わせて上下する。

「これを付けている間は、人の言葉を話すことも二本足で歩くことも禁止です。あなたは僕に飼われているのです」

彼女は頷いた。耳まで赤い。 さっきまで肩書きで呼ばれていた自分が、ペットとして"飼われて"いる。そんな現状にどうしようもなく彼女は興奮している。

「手を床に着いて、四つんばいになりなさい」

手のひらが床に着く。腰が上がる。彼女の目の高さが、僕の膝より下になった。 僕は少し離れて椅子に座り、しばらく何も言わずに眺める。腕が細かく震えている。太ももの内側を、光るものが伝いはじめた。 僕はまだどこにも触れていない。

「おいで」

彼女は手と膝で歩いてくる。1歩ごとに首輪の金具が小さく鳴る。 足元まで来たところで、頭をなでた。髪の下の地肌が熱い。

ステンレスの器を2つ持ってくる。ペット用の食器だ。 1つには水、もう1つにはヨーグルトを入れてある。床に置くと、彼女の目が器と僕の顔を往復した。

「食べなさい。もちろん手は使ってはいけません」

彼女は土下座をするように姿勢を低くする。顔が器に近づき、舌の先で器の中身をすくう。 鼻の頭にヨーグルトが付いた。拭おうとして、手を使えないことを思い出す。彼女はそのまま固まった。

「付いたままで構いません。きれいに食べられているから」

ちゃぷちゃぷ、と水を飲む音が静かな部屋に響く。人間の食事では立てない音だ。その音を、彼女自身も聞いている。 腰が落ち着かずに揺れている。下半身への刺激を期待していることが何も言わずとも伝わってくる。

「だめですよ。食事を続けなさい」

彼女はまた器に顔を戻した。 僕はそばにしゃがんで、背中に手を置く。器の底をなめ終えるころには、手のひらに伝わる呼吸が深くなっていた。

空になった器を下げ、指でペットの口の汚れを拭う。彼女は期待するようにその指を目で追い、唇を少し開いた。

「きれいに食べましたね。食事はここまで。僕はやることがあるので『待て』ですよ」

僕の足元にラグを敷き、そこを彼女の場所に決めた。

「ここで待っていなさい。お利口にしないとだめですよ」

彼女は腰を下ろした。両手は床に着いたまま、顔だけを上げて僕を見る。 股間は濡れ脚はだらしなく放り出されている。

僕は椅子に戻り、本を開く。 ページをめくるたびに、足元で金具がかすかに鳴る。視線は本に落としたまま、彼女の気配だけを追う。指示はまだ何も出さない。

飼われるというのは、身体と精神の自由だけではなく時間すら預けることだと僕は考えている。自分自身の意思で尊厳を預けた彼女は、この夜、ペットとして「あらゆること」を管理されるのである。